Styling Items
一枚の布ができるまで
アトリエ・ダンタンの「アトリエライン」を支えるものづくりを訪ねて
アトリエラインの服に触れたときに感じる、
やわらかさや自然な表情。そして軽やかな着心地。
その風合いは、どこから生まれるのでしょうか。
一枚の生地ができあがるまでには、
糸をつくる人、生地を織る人、染める人、
たくさんの手と技術が受け継がれています。
今季のアトリエラインに使われている生地をたどり、
糸づくり、生地づくり、染色の現場を訪ねました。
そこには、効率だけでは生み出せない、
ものづくりへの丁寧で真摯な姿勢と、受け継がれてきた技術が息づいていました。
糸からはじまる
今季のアトリエラインの白の生地には、「ラフィ糸」が使われています。
ラフィ糸は、紡績工程で生まれる落ち綿と良質な綿を絶妙なバランスで組み合わせてつくられる糸です。
繊維の長さが均一ではないため、整いすぎない自然なムラが生まれ、どこか使い込まれたような味わいのある豊かな表情を感じさせます。
ラフィのふっくらとした風合いの秘密は、メキシコ産綿「ホアレス」にあります。
繊維が太く、優れた反発力を持つこの綿は、圧縮された梱包を解くと、まるで息を吹き返すように大きく膨らみ始めるのだそうです。
その豊かな膨らみが空気をたっぷりと抱え込み、ラフィ糸ならではのやわらかさと温かみのある風合いを生み出しています。
工場を訪れて印象的だったのは、糸づくりへの細やかなこだわりでした。
綿はまず太いロープ状にまとめられ、何度も引き伸ばされながら少しずつ細い糸へと姿を変えていきます。
あのふわふわしていた綿の塊が、一本の細い糸になっていく。
工場の中には、その工程を支える機械が幾列にも並び、無数の糸が張り巡らされていました。
見上げるほど高く積み重なった糸のパッケージから伸びた一本一本の糸は、張力を保ちながら静かに走り続けています。
規則正しく並ぶ機械の動きはまるで生き物のようで、その光景にはどこか圧倒されるものがありました。
工程自体は機械によって行われますが、どのように撚りをかけるか、どのくらいの力で引き伸ばすか。
その判断には長年培われた経験が欠かせません。
そのわずかな調整の積み重ねによって、糸の表情や風合いは大きく変わります。
そして機械は希少な旧式の紡績機が大切に使われています。綿が持つ本来の柔らかさを損なわないようにゆっくりと手間ひまをかけて紡ぎ出すのです。
ふっくらとしたラフィ糸の表情は、こうした細やかな調整と長年培われた職人の経験によって支えられています。
効率よく均一な糸をつくることよりも、素材が持つ自然なゆらぎや豊かな表情を大切にすること。
この糸づくりの現場では、次のような考え方が大切にされています。
「私たちが思う“良い糸”とは生産効率がよく作りやすい糸ではなく、最終製品になって触れた時や着た時に、その人の「感性」に響く糸である。」
長年培われた技術と経験、そして素材への愛情と誇り。
ラフィ糸ならではのやわらかなふくらみや奥行きのある表情は、こうしたものづくりへの信念から生まれているのです。
布へと生まれ変わる
今回訪ねた織布工場では、アトリエラインの生地が織られています。
まず、白の生地にはエアジェット織機が使われています。
エアジェット織機は、圧縮した空気の力で緯糸を飛ばしながら織り上げる高速織機です。
糸を一気に通すことができるため、生産効率に優れているだけでなく、織りムラの少ない安定した生地をつくることができます。
工場内では、織機が絶え間なくリズミカルな音を響かせながら稼働し、一本一本の糸が正確に重なり合っていきます。
経糸と緯糸が規則正しく重なり合うことで生まれるのは、軽さと丈夫さを兼ね備えた生地。
ラフィ糸のやわらかな表情を活かしながら、軽やかでありながら程よいハリを備え、アトリエラインらしい美しいシルエットを支える土台となっています。
一方、白以外の定番生地には昔ながらのシャトル織機が用いられています。
シャトル織機は、緯糸を巻いた「シャトル(杼)」が左右に往復しながら糸を通し、生地の端まで連続した緯糸で耳付きの布をゆっくり織り上げる伝統的な織機です。
ゆっくりと糸を往復させながら織りあげることで、糸に余計な負荷をかけず、空気を含んだようなやわらかな風合いが生まれます。
「糸をゆっくり織られる」
「糸にストレスを与えず風合いを出せる」
効率だけを考えれば決して早い方法ではありません。
それでもこの織り方を続ける理由は、生地にしか出せない表情を生み出したい思いからこそなのです。
生地に表情を与える
織り上がった生地は、最後に染色の工程へと進みます。
染色工場に足を踏み入れると、目に飛び込んできたのは、天井近くまで届く巨大な染色機と、その周囲を巡る無数の配管。
複雑に張り巡らされたパイプの中には、温度や圧力を管理するための蒸気や水が流れています。
一見すると無機質な設備のようですが、その一つひとつが生地を均一に染め上げるために欠かせない役割を担っているのです。
白以外の生地には、「液流染色」という手法が用いられています。
ロープ状にした生地を大量の染液の中でゆっくりと循環させながら、半日ほどかけて染め上げていく方法です。
生地全体が絶えず動き続けることで染料がむらなく行き渡り、奥行きのある美しい色合いが生まれます。
また、染色の過程で生地そのものがやさしく揉み込まれるため、自然なシワやふくらみが加わり、どこか最初から着慣れたようなやわらかな風合いへと育っていきます。
効率だけを追い求めれば、もっと短時間で染める方法もあります。
けれど、この工程では生地に余計な負荷をかけず、時間をかけてゆっくりと色を定着させていきます。
均一に染まっていながらも、どこか奥行きがあり、やわらかな表情を感じられるのはそのためです。
アトリエラインの色合いに宿る美しさは、こうした手間を惜しまないものづくりによって支えられています。
それはただ色をつけるだけではなく、生地の表情そのものをつくる工程なのだと感じました。
一枚の服になるまでには、
糸をつくる人
生地を織る人
染める人
たくさんの手がつながっています。
アトリエラインの服に感じるやわらかさや心地よさは、素材そのものの良さだけではなく、そうした人の技術と経験、そしてものづくりへの真摯な姿勢によって支えられていました。
何気なく袖を通している一着の背景には、長い時間をかけて受け継がれてきた技術があります。
服を見るとき、少しだけその背景に思いを巡らせていただけたらうれしいです。
そして、アトリエ・ダンタンの「アトリエライン」の服が、これまで以上に愛着の湧く一着になれば幸いです。